【リポート】「叱る指導」はもういらない?!~行動分析学で読み解く“行動のホントの理由” とその対応~ セミナーレポート
今年度最初の保護者・支援者向けセミナー
令和元年5月19日(日)9:00〜11:50、福岡市中央区荒戸にある、「ふくふくプラザ」で、今年度最初のジョブクエストを開催いたしました。
昨年までセミナーの取り組みを「ジョブスタディ」としていましたが、より「探求する」という意味合いを込めて「ジョブクエスト」と名称を改めました。「働く」事について探求することで、人生において大切な様々なことが見えてくる、という意味を込めています。
また、今年は「企業向け」のセミナーと「支援者・保護者向け」のセミナー双方企画し、それぞれの観点や学びを深めていきたいと思います。
応用行動分析学を学ぼう!
今回の講師は 応用行動分析学を用いて、数多くの生徒を導いてこられた、大野城市立大利小学校教頭の朝倉博実(あさくら ひろみ)先生です。
私が行動分析のお話に出会ったのも朝倉先生のセミナーでした。
行動分析学は、《人間を含めた動物全般を対象として、行動の原理が実際にどう働くかを研究する》学問です。
以下、朝倉先生から受講者へのメッセージです。
発達に特性のあるお子さんに向き合う際に、うまくいかないことやこだわり、失敗や失態についての 原因を
『やる気がない』『学ぶ気がない』『消極的だ』『分かってない』など『心』に求めることはありませんか?これ
らは全て行動を評価しているだけで、問題解決にはつな がりません。
今セミナーの理論的基礎をなす『行動分析学』では、行動の原因を個体内部に求めるので なく、個体を取り
巻く外的環境 に求めます。行動分析学は世界各地で、教育、介護、医療、ビジネ ス、スポーツ、家庭問題など
様々な現場で応用され大きな成果をあげています。 このセミナーを通し、新たな視点で対象となる方々を見つ
めることで、今必 要な支援のヒントをつかんでいただければ幸いです。
このコメントに集約されていますが、私達はとかく人々の行動を「心の問題」と捉えがちですよね(^ ^;)
しかし、「原因は環境にある。刺激となる環境要因を変える、取り除く、加えることによって、行動が変わる」ということを知った瞬間は本当に目からウロコでした。
なんとかしたい、そう思っている方々からすると、心や血液型や遺伝等といった、「変えることができないもの」を理由にするのではなく、環境を変えることで結果が変わる、となると、俄然希望がわきます。
行動分析学はそんな希望に満ちた学問なんです。
ラベリングと「医学モデル」の落とし穴
〜以下、テキストより抜粋〜
行動の原因を指し「意志が弱い」「行儀が悪い」と言うのは、ある具体的な行動に対してつけられた「名前」や「ラベル」と言えます。行動に対してラベルを貼ることは「ラベリング」と呼ばれます。
ラベリングの危険性は行動にラベルを貼るとき、多くの場合、人は無意識に「こころ」を想定し、その「こころ」が問題行動を引き起こしていると考えてしまうことです。
そういった、心の中の問題とか、血液型とか、次男だから、末っ子だからとか、年齢とか、「操作できない変数」を考えることは、目の前の行動の問題を解決する上では、全く無意味なのです。行動分析学では、「環境要因」が「行動の原因」となると考えます。行動が周囲の環境にもたらす「効果」の観点から行動の原因を探ります。最も重視すべきは、「行動随伴性」を見ていくことです。
●なぜ行動問題が生じているのか。
●なぜ指導が進まないのか
●どうすれば問題行動を減らして、指導目標を達成できるのか。などについて、色々アイデアが浮かんでくるようになります。
行動には全て先行刺激があります。そこで、出現させたい反応や行動が、行動レパートリーにない場合は、いくら先行刺激を出しても行動は出現しません。
まず、行動レパートリーを増やすことが先になります。そして、後続刺激で適切な行動の出現を安定させていくことになります。
行動随伴性
朝倉先生のお話の中には、専門的な言葉がたくさん出てきます。
事前に知っている方でしたら、分かると思いますが、初めて聞く方には少々難しいかと思います。
例えば「行動随伴性」という言葉。
「随伴」とは、「ある事につれて、他のことが起こる」ことです。
行動にともない、起こってくる事、つまり、行動を起こすことによって起こってくる事柄が常に関連付けられていることです。
① 最初の状態から、行動を起こした結果が自分にとって良いこと(好子)であれば、その前に起こした「行動」が「強化(繰り返される、強くなる)」されます。
② 最初の状態から、行動を起こした結果が自分にとって悪いこと(嫌子)であれば、その前に起こした「行動」は「弱化(繰り返されにくくなる、しなくなる)」されます。
①を好子出現による行動の強化
②を嫌子出現による行動の弱化
といいます。
同じように、行動によって結果がなくなってしまうことによって「行動」の随伴性が変わるパターンもあります。
①好子消失による行動の弱化
②嫌子消失による行動の強化
です。
このサイクルを3つの段階に分けたものを三項随伴性といい、考え方の基礎としていくのです。
今、私もこの記事を書きながら整理しているようなところもあるのですが、詳しく学びたい方はぜひ、朝倉先生オススメの杉山尚子さんの
「行動分析学入門」
を手にとって見て下さい。
とってもわかりやすく、スラスラ読める内容です。
行動の見方が変わる
行動分析学の手法を知ると、行動に対する見方が変わります。
それは、発達に特性のある方への対応だけでなく、すべての人間関係にも言えることだからです。
社内、家庭、恋人、子育て、様々なシーンに当てはまり、行動に焦点を当てるようになるので、「無用な怒り」を抑制することができます。
特徴的なエピソードとして、「子どもを叱る」という行為についても、実は、「叱られることで、”注目を集める”」ということが「好子」になっており、その叱られる問題行動が強化されていく、というお話があります。
どうして、叱っているのにやめないのか。それはそこに叱られる子にとっての「好子」があるからです。
そうであれば、叱るのは「無用」ということになります。
「行動のホントの理由はどこにある?」
例えば、「先生、◯◯ちゃんに突き飛ばされました!」
これに、先生が
a「なんだと!〇〇をよべ!けしからん!」と言って怒るのか。
b「なぜ〇〇ちゃんは突き飛ばすことになったの?」と聞き、突き飛ばすことになったきっかけの「スイッチ」を探すのか。そこで指導の質が変わってくる。
また、「嘘をつく子の嘘を暴いてはいけない」「暴けば暴くほど、嘘はエスカレートしていく」
そんなお話も印象的でした。
聞いて、「なるほど!」と思うのは簡単なのですが、自分でそのスイッチを見つけられるようになるには、かなりの修練が必要です。
しかし、その手間を掛けるかどうかで、指導の質が変わっていく、人間関係が変わっていく、人生が変わっていく、そうおっしゃっていらっしゃいました。
会場からの質問
質問コーナーでは、ご参加の方からの質問にもお答えいただきました。
支援をされている方から「親御さんの意向とお子さんのやりたいこと、このギャップを埋めるにはどうすればよいか」、といった質問をいただきました。
親御さんの希望も分かるが、現在はお子さんのやりたいことを優先させてあげたい、それが彼のためになるのではないか、そう言った場合にどのように行動を導き親御さんもそのギャップが埋められるか、ということでした。
朝倉先生の回答は、「お子さんの意思を尊重し、親御さんが求めている結果はストレスを減らす形でクリアする事」という内容でした。
ここでも、対象となるお子さんへの目線、行動が大切だというスタンスを示されていたのが印象的でした。
そのうち、行動が改善してくることで、親御さんとお子さんのギャップも埋まってくる、ということでした。
それが実践され結果を導けるようになるには、試行錯誤が必要なことは言うまでもありません。
しかし、そこに向かっていくことで支援の質や技術が磨かれていくのです。
チャレキッズのセミナーでは、「発達に特性のある子のキャリア教育」というテーマで事業を行っていますが、
関わることで得られる学びがたくさんあります。
ぜひ、今後のセミナーにも期待していただければと思います(^ ^)
ご参加くださった保護者の方、放課後等デイサービスの方、企業の皆さん、
そして朝倉先生、ありがとうございました!