【リポート】7月29日(水)開催 チャレキッズ・オンライン座談会 《教えて!谷川先生!》~ゲーム障害の兆候とメカニズム~
保護者・支援者のみなさんと語るオンライン座談会
2020年7月29日(水)10:00〜11:00 Zoomを使ったオンライン座談会第3弾を実施しました。
テーマは「ゲーム障害の兆候とメカニズム」。
ゲストスピーカーには、公認心理師、カウンセリングスペースやどりぎの谷川芳江先生をお招きました。
多くの保護者の方にも関心の高い「ゲームとの向き合い方」についてお送りした座談会。
キーワードは“依存のメカニズム”と“脅威システム”、 です!
目次
1,WHOで“疾病”として認定された「ゲーム障害」
2,事前試聴動画で事前学習
3, 依存はなぜおこるのか?!
4, 自己治療仮説による依存症
5,3つの感情制御システム
6,依存状態にある人の心理状態とは
7,穏やかな心の状態に働くもの
8 ,参加者の皆さんの事例を共有
9,家族支援プログラム
10 ,次回以降の企画のご紹介回以降の企画のご紹介
1,WHOで“疾病”として認定された「ゲーム障害」
自分ではコントロールができなくなる病
アルコールやドラッグなど、物質の摂取のコントロールがができなくなる「依存症」。
一方、買い物やギャンブルなど、行動から得られる刺激に中毒性をもってしまう状態は「嗜癖(addiction)」といいます。
ゲーム障害は物質ではないので、「嗜癖」の一種。
そして、本人の意志や性格によるものでは無く、「コントロールができなくなる病気」であること。
本人の努力だけで治療していくのは難しいことも知っておくことが大切です。
座談会の流れ
9:45 入室開始
10:00 主催挨拶
10:05 ゲストSpeakerご紹介
10:10 参加者自己紹介
10:20 参加者のみなさんの事例共有
10:30 speakerからの話題提供
11:00 事例に対してのアドバイス
11:30 質疑応答
11:50 感想共有
12:00 終了
2,事前視聴動画で事前学習
“ゲーム障害という依存症”
今回も座談会にご参加の皆様には事前に動画をご視聴いただいた上でのご参加と致しました。
専門用語なども多く出てくるので、時間のある時に見ていただけるのがポイントです。
この動画は座談会後もご視聴いただけるので、振り返りとしても大変役に立ったとおっしゃっていただいています。
3, 依存はなぜおこるのか?!
“自己治療的仮説”としての依存症
ギャンブル、薬物、アルコール。
依存症のイメージはどうしても「だらしない」。「意志が弱い」「本人の性格の問題」と捉えがちです。
確かに、そのように映る要因が、依存症となっている本人にあることも多いと思います。
しかし、そのメカニズムを知ると、誰もがそのループに巻き込まれる可能性があることがわかります。
人間が本来実を守るために備えている、脳の機能や感情のメカニズムにそのヒントがあります。
まず覚えておいていただきたいのが、“前頭前野の働きと大脳辺縁系の働き”と、そのバランスについてです。
感情や欲望を司る大脳辺縁系
怒り、喜び、驚き、欲しい!やりたい!飲みたい!食べたい!など、感情や欲望を司るのが大脳辺縁系です。
怒りや喜び、恐怖や不安、欲望などがグッと高まると、脳内の報酬系の作用によりアドレナリンが分泌され、即行動に移れるように体が準備をします。
その一瞬で沸き起こる感情や欲望を制御することができるのが、前頭前野の働き。
こちらは理性や社会性、思考すると言った働きにより、将来の見通しを立て適切な判断を行っていきます。
依存状態になるとこのバランスが崩れます。
通常は前頭前野の働きにより抑制できることが、依存物から得られる喜び(快感や高揚感)により前頭前野よりも大脳辺縁系の働きが優位になるので
そうすると、感情や欲望の抑制ができなくなる。
これが依存のメカニズムです。
依存症進行のプロセス
依存症が進行するプロセスは以下のとおりです。
①それをすると快感や高揚感を得る
②繰り返しやらずにはいられない
③それが生活の中心になり、その刺激がないと不快な症状が出る。(報酬欠乏症)
④より多くの刺激を求める
⑤社会的・経済的・健康的な問題が出る
⇛他のことに関心が向かず、のめり込みがやめられない
⑥やめなくてはと思っても、どうしてもやめられない
このようなプロセスが起こる原因も脳の仕組みに由来しているのです。
4, 自己治療仮説による依存症
依存症の方の心理的特徴
依存症の患者の心理的な特徴として、「過小評価 否認 自己中心性 ウソ」というものが挙げられます。
「どうせ自分なんて」
「すぐやめられるって」
「自分さえ良ければそれでいい」
「やってないって」
これらの行動がでてくるのはなぜか、その原因を「自己治療的な行動」として理解するのが、自己治療仮説による依存症の考え方。
どういうことかというと、自身の持っている不安や恐怖などの“苦痛”を緩和するために、“快感や高揚感”が得られる行動を行っている、という考え方です。
この考えかたの背景には、感情のシステムを理解する必要があります。
5,3つの感情制御システム
大脳辺縁系が司る感情や欲望のメカニズム
感情は頭で思うより先に胸に響きます。
“喜びや怒り、悲しみ、驚き、不安”は、出来事が起きて瞬時に反応します。
それらを3つの感情制御システムで表現すると
3つの感情制御システム
1)獲物(資源)を獲得するための意欲を持つシステム(動因システム)
2)脅威の瞬時の感知(闘争ー逃走反応)(脅威システム)
3)上記ふたつのシステムを制御・鎮静化してウェル・ビーイングを保つ
=充足とスージングのシステム
となります。
動物の進化に貢献してきた“脅威システム”
依存症のメカニズムを考える上で、今回谷川先生からご紹介いただいた言葉の中でも印象的だったのが、「脅威システム」という言葉です。
動物は昔から様々な危険にさらされてきました。
危険をすばやく察知し、回避するための行動が取れなければ生き残ることは難しい。
危険や不安に襲われたとき、頭で考えるより先に感情が沸き起こってくる、これが「脅威システム」です。
例えば、
・夜道を歩いていて後ろから足音がする、
・車を運転していて突然子どもが飛び出してきた
・眠っていて地震に気づき飛び起きた。
上記のような危険や不安が迫ったとき、人は頭で考えるより先に感情が沸き起こり、
すぐに動けるようにアドレナリンが分泌され、筋肉を動かす準備を整えます。
こういった感情の動き(脅威システム)があるからこそ、動物が生き延びてこられたのです。
つまり、感情や欲求は生命の維持のために無くてはならない働きである、ということです。
“脅威システム”の負の側面
脅威システムは生命の生存維持のために必要な勘定システムですが、マイナスな面もあります。
それが①過大評価 ②肯定的思考の却下
③否定的な思考の反復の3つです。
①過大評価
脳が特定の状況での脅威や危険を過大評価し、些細なことで臨戦態勢をとってしまいます。
料理のためにコンロに火をつけたるたびに火災報知器がなるようなものです。
②肯定的思考の却下
肯定的な出来事よりも否定的な出来事に注意を向かわせます。
たくさん肯定的な出来事があっても、否定的な出来事に意識が集中し思い悩んでしまいます。
③否定的な思考の反復
問題を解決するために思考が働かず、問題を不安視する考え方が繰り返し沸き起こってきます。
脅威システムという脳の仕組みによって否定的な認知(ものの捉え方)が生じているということになります。
現代においては生命の脅威ではなくて、批判・否定される時にも(過剰に)分泌され、不安・嫌悪・怒り・ストレスが強くなる傾向があります。
・なんとなく、嫌な対応をする人がコミュニティにいるとき
・なんとなく、この話は嫌な予感がするな、というとき。
・人間関係がうまくいかないと思っているコミュニティにいるとき
原因はわからないが(実際は原因はある)、好ましくないと気持ちが反応しているとき。
それはまさに「脅威システム」が働いている状態となります。
“脅威システム”が働き続けるとどうなるか
常に不安や恐怖を感じている状態が続くとどうなるか。
人は精神のバランスを崩し、自律神経が乱れ、様々な精神的な疾患を抱える可能性があります。
最悪の場合自ら命をたってしまうことも。
そうならないように、人は自らの心のバランスをとるために、別の《感情システム》を働かせます。
それが、“動因システム”です。
6,依存状態にある人の心理状態とは
心のバランスを保つために働かせる“動因システム”
脅威システムが働き続けていると、精神のバランスを崩します。
そうならないようにするために、心が別の感情システムを働かせようとします。
それが、「動因(競争)と資源獲得のシステム」です。
例えば、マラソンでゴール寸前の状態。後もう少しでゴールだ!という時に、不安を感じるでしょうか?
仲間とワイワイと騒いでいるとき、会社であった嫌なことを思い出すでしょうか?
同じように、お酒を飲んで酔って気持ちよくなっているとき、好きな買い物に熱中しているとき、ギャンブルの勝敗がわかる瞬間、
どれも、嫌なことなど思い出しません。
そして、ゲームに熱中しているときも同じです。
このときに働いているのが「動因(競争)と資源獲得のシステム」です。
このとき、前述の「依存症のプロセス」の中の①
①それをすると快感や高揚感を得る
という状態に当たります。
常に不安や恐怖といった脅威システムが働いている場合、「動因(競争)と資源獲得のシステム」に切り替えることで、精神のバランスを保つことができるのです。
このことに、自己治療の効果を得られた本人は、脅威システムを切り替えるために、手軽に、高揚感と快感を得ることができる、依存物質、行動嗜癖を繰り返し行うようになる。
これが自己治療仮説的な依存症です。
“動因システム”の負の側面
動因システムはドーパミンが分泌されます。
ドーパミンの分泌が繰り返し行われると、神経の感受性が鈍くなり、なかなか満足することが出来ない状態になっていきます。。
もっと多くの強い興奮を得るためにはドーパミンの分泌量を増やす必要があります。そうして、繰り返しドーパミンの分泌が増えると、ドーパミン神経の感受性がさらに鈍くなり、ドーパミンの分泌が減ります。その結果、欲求不満、不快を感じることが多くなるのです。
こうして、脅威システムから逃れるために働かせる動因システムでは、目的としているドーパミンの分泌ができなくなってきて、それによる欲求不満と不快を感じ、さらに感情システムの脅威システムが更に心を覆うようになることで、さらに動因システムを働かせようとするという循環になっていきます。
7,穏やかな心の状態に働くもの
充足とスージングのシステム
「スージング」とは、「沈静・鎮める」という意味があります。
嫌なことや心配ごとがなく、安全な状態のとき、心が平安と充足の状態にあるときは、このシステムが働いています。
このとき脳ではエンドルフィンという物質が分泌されています。
エンドルフィンは、人間の本能的な欲求が満たされる時に分泌され、モルヒネと似た鎮痛・沈静効果があります。
“充足とスージングのシステム”は先の脅威システム、動因システムを切った状態にしてくれるので、いかにこの状態に感情のシステムを切り替えることができるかが鍵となってきます。
スージングシステムを働かせるために
今回の座談会ではココまでのお話はありませんでしたが、谷川先生の行っている家族プログラムでは「対話」により、この状態を作れるように指導されているそうです。
家族が依存症と関わるとき、家族自身が「脅威システム」に陥ってしまい、依存症の負のループに巻き込まれてしまいます。
そこから抜け出すためには、家族が自身の心理状態を冷静に見つめ、スージングシステムを意識することが大切です。
8, 参加者の皆さんの事例を共有
お子様が依存状態にあるという方から、どこからが依存状態なのかを知りたいという方まで
座談会では、参加者の皆さんのお子さんについての話題を共有させていただきました。
事例紹介
◆ 16歳 女
大学進学を希望していますが、机に向かって勉強ができない、できても集中力が続かないそうです。そんな自分に苛立ち、時に私を蹴ったり、物を投げたりします。しかし、スマホは積極的に手に取り1-2時間続けてします。
そんな娘にどのように接すればいいでしょうか。◆ 大学生の息子と高校生の長女
息子は現在は落ち着いたが、一時はPCゲームにハマり、それをさせないことに執着してしまっていた時期があり、家族の中で戦いが日々繰り広げられていた。結局PCが出来ない環境に置くことで、沈静化したが、その影響は今も残っている。
もうひとりの長女については、現在、スマホを手から離さない。常に何かを見ているようだが、あまり明るい表情でもないのが気にかかる。
年齢の高い子に保護者はどのように関わればよいのか。◆ 11歳 男
不登校になって4年目になりました。YouTubeで作りたい物や、好きなものを見つけたり刺激をもらい。絵や工作への創作意欲に繋がっています。
ゲームも、友達と交流するツールとなっています。
ただ、管理は難しくて、長時間の視聴による視力や脳への影響、触れて欲しくない情報にふれる可能性や、現実とバーチャルとの付き合い方など、心配事は沢山あります。◆
依存と依存ではない。の境界線はどこで、依存になった場合、どうやって治療するのか。予防に大切な事と、治療に大事な事は何と考えられているか。
を教えて欲しいです。
そして、これらの話題について、谷川先生から個別にアドバイスや取り組みへのご提案がありました。
それは例えば、
「スマホを手放さない娘への声かけが難しい」▶「まずはお母様の心のケアをすることから始めませんか。依存症に関しては、まずはご家族が支援機関とつながることからスタートします。」
「姉弟で症状は違うが、パソコン、スマホが手放せない」▶「お子さんが社会と関わろうとする行動を強化(その行為に関心を示し、ホメる、喜ぶなどの本人にとって喜ばしい反応を示す)してください」
「不登校であると同時にインターネットを使って様々な事を行っているが心配事がつきない」▶「お母様との距離が近いことも一つの問題であり、あと、規則正しい生活を心がけることで良いサイクルにつながる」
など、谷川先生の豊富な臨床経験から現時点でのお子さんの様子をどのように捉えたら良いのかというアドバイスをお届けいたしました。
9、家族支援プログラム
ゲーム障害における“福岡モデル”を作りたい
昨年、ゲームリテラシーというタイトルで、福岡esports協会様や強度行動障害のプロフェッショナルの方にご協力いただき、ゲームについて考えるセミナーを行いましたが、今回はより「ゲーム障害」にフォーカスした内容でお届けしました。
具体的な依存症の仕組みや脳の構造、感情のシステムなどを知ることで、様々な状態を客観的に視る、知ることの大切さを学ばせていただきました。
そして、「どうして良いかわからない状態」を気持ちだけでなく、システムとして理解することで、抜け出すためのいとぐちを掴むことができることを知ることが出来ました。
「解決方法はある」「抜け出す道はある」それを知ることだけでも、我々の「脅威システム」のレベルを下げ、冷静な判断を促すきっかけになると思いました。
10.次回以降の企画のご紹介
当事者座談会、就労支援現場を知るための座談会
今後の座談会の予定は、成人の発達障がい当事者の皆さんによる体験談などを保護者の皆さんと共有する座談会や就労支援現場で働く支援員の方をお招きしての障がいのある方の就労についての取り組みを知る座談会を予定しています。
ぜひ奮ってご参加ください!