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【リポート】チャレキッズ ジョブクエスト 6/24(月)開催 《 障がい者雇用は企業と人材成長のビッグチャンス》

障がい者雇用を企業の成長へと導くためには?! 

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今回のチャレキッズジョブクエストは企業向けセミナー。《障がい者雇用は企業と人材成長のビッグチャンス》と題して、ASKULLOGIST株式会社福岡物流センター副センター長の坂井博基氏をお迎えした。
チャレキッズが始まった当初からお話をうかがったり、企業見学させていただいている坂井氏。
今年度はチャレキッズモデル企業(※)向けの研修においても事例を提供してくださる企業としてお願いをさせていただいた。
(※チャレキッズ法人会員企業で、障がい者雇用を通じ、よい経営環境を整えようとする企業)

8年間の歩みを通して取り組まれたこと、更に改善を図られているところなど、障がい者雇用を成功させるために必要なエッセンスについてお話くださった。

何のためにするのか?!を明確に 

アスクルロジストの福岡物流センターでは現在256名の方が働いていおり、そのうち障がいのある方が43名雇用されている(雇用率20%)。8年間での定着率は80%。
特別支援学校や支援機関からの紹介のみで、採用率は100%という実績。
もちろん、特例子会社でなく、営業利益を求められる一般企業としての実績だ。
どのようにして、この体制を築いて来たのだろう。
坂井氏によると、そこには「思い」だけでなく、営利企業としての明確な目的と目標が必要だとのこと。
たとえば

①法定雇用率の達成目的(納付金支払い・行政指導回避)
②会社のCSR活動の一環
③社長・役員の想い
④長期的な労働人口問題に対しての対策一環
⑤障がい者の方が能力が高いと判断

などが挙げられる。
①、②、③はよく耳にするが、坂井氏は④、⑤の部分がアスクルの場合は当てはまるという。

これから労働人口が減っていく中で、障がいのある方も戦力にできる企業は、できない企業に比べて採用面だけでもアドバンテージを生む。その他にも、機能的な価値(サービスの工場、働きやすい環境)、感情的な価値(ファンづくり)、社会的な価値(ダイバーシティ、インクルージョン)など、多くの付加価値を生むことになる。だからこそ、早めに取り組むべき課題だ。
それが坂井氏が障がい者雇用をおすすめする理由だ。

ではどのようにして「採用率100%、定着率80%、毎年雇用を継続」が可能になっているのだろうか?
坂井さん

一貫した育成体制

障がい者雇用を成功させるポイントとして挙げたのは、「実習を何度も行うこと」
関係性を構築している、特別支援学校や就労支援機関が、まずは「この人ならアスクルで働けそうだ」という見立てを行い、人材を紹介。
そこから、福岡物流センターでは、採用に至るまでに3回ほど実習を行う。

そして、その実習期間中に、いろんなことを体験してもらい、「好きなこと」や「できること」を探っていき、「できること」は伸ばしていくよう取り組んで行く。

そして、実習後は毎日反省会。密なコミュニケーションを図り、「障がい特性」ではなく、「その人個人の力量、適正、関心」を知ってくことにフォーカスするのだ。

 大切なのは「なぜ?」 

もう一つ大切にしているのは、「なぜ」を考える癖付けだという。
実習が始まる前に必ず、「何のために実習をするのか」というWhyを意識してもらうようにする。

多くの実習生が、最初は決まりきったように「仕事をがんばるため」「挨拶をしっかりやる」「まじめにがんばる」といったことを目的としてあげる。
しかし、実習の目的はそれぞれ、段階により違うはず。
今の自分にとって「なぜそこにいるのか、なぜ取り組むのか」を自分なりに理解した上で取り組んでもらえるように、最初の動機づけを大切にしている。

そして、実習を終えたときには次の実習までの「課題」を与えて、次回への目標や目的を持って帰ってもらっている。
この流れを繰り返していくうちに、本人にも「働く意味」「目的」「働きたいという気持ち」が備わっていき、気がつけば
「この会社ではたらいてこんなふうになりたい」と思いながら入社できるようになるのだ。

 実習から採用までの流れは以下の通り 

特別支援学校インターンシップ事前面接打合せ

インターンシップ事前 本人面接

インターンシップ開始

期間中、毎日反省会の実施
・体験教育の実施(特性確認、興味のある作業の探り)
・保護者参観
・最終火大反省会、記念品贈呈
インターンシップ期間終了
↓(上記を3ターン)
採用面接

採用 入社前事前説明会
入社式

大切なことは「安全と安心」がきちんとできている状態を作ること

「安全安心」という言葉を最近良く耳にする。
人が心をゆるし対話ができる状態、という意味で使われることもある。
しかし、一つ一つの言葉を考えると、場合によっては並列に語ることができない場合もある

言葉の意味を考えてみると、『安全→safe』、『安全状態 →safety』。
safetyは「 許容できないリスクがない、許容できないリスクからの開放」と訳せる。

つまり、「どこまでが許せるのかの基準を設ける」ことが大切だ。

続いて「安心」は「peace of mind」で「心理的に幸せ」な状態。
心理的な安全性が担保されていることが安心だ。

そういった関係性を築くためにやっているのは、『密なコミュニケーションをとる』こと。

安心安全な環境の実現を目指して

例えば、反省会は毎日行う、定期的に支援者会議を行うなど。
雇用側だけでなく、就労側にも参加してもらうことを大切にしている。

そのため、家族にもお越しいただいての共有会を行っている。
家族と支援者と一緒に相談しやすい環境を作ることを心がけている。

その上で、褒めることは褒める、改善してもらいたいことは注意し、コミュニケーションを取りながら状況の理解を得ていく。

最初は坂井氏一人で地道にコミュニケーションをとっていたが、
企業内外での支援の輪を広げていくことで、安心な環境も充実してきている。

今では、学校や産業医や保健師などの専門家などとの連携も生まれていっていて、どんどんとその輪が広がり安心のクオリティは上がってきていると感じている。
また、毎日の反省会ができなくなっても交換日記などを用いて、反省会を行わクてもコミュニケーションが取れる状態を担保したりもしてる。

「ななめの関係」をつくる

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もう一つ、安心の材料として効果を発揮しているのが「ななめの関係」。
つまり「先輩・後輩」の関係づくりだ。
縦の関係(親・上司)、横の関係(友達・同僚)とはまた違う、ななめのかんけい(先輩・後輩)がいることで、
言葉遣いや規律などについての継承が行われる他、「あこがれ」や「目標」となる存在ができる。
さらに、後輩をしどうしていくことで自身の行動に規範が設けられていくことも大きなポイントだ。
「がんばればあこがれの先輩のように仕事ができるようになる。お給料もあがる」。
そういう目標と「安心」を得る。
そして「自分も後輩に慕われるせんぱいでありたい」そう思う関係がコミュニケーションの能力を向上させるのに役立っているという。

毎年続けることで安心が高まる

安心状態を作り出していくためにも、雇用を毎年継続しているという。
毎年雇用することで先輩ができ、後輩が生まれる。
その中で、頼れる人、コミュニケーションを取れる人、助けを求めることができる人が増え、支援の輪も充実してくる。
さらに、彼らの能力により業績も上がる。
そして、助成金を活用することもでき、利益貢献もできる。
続けることで、「悪いことが何もなくなっていく」のだという。

8年前、「将来は30人を雇用できる環境づくりを目指す」と宣言し始めた障がい者雇用だったが、スケジュールも効果も想定通り進んでおり、雇用規模にいたっては当初目標を越え、42人を採用するまでになっている。

平等と公正 

もう一つ大切にしていることは「平等と公正」ということだ。

・平等な評価
・平等な給与
・平等な機会
・公正な指導
・公正な環境

アスクルでは、障がいのあるなしに関わらず、同じ仕事をしている従業員は同じ評価軸、給与、機会を実現している。
そのため、障がいのある方のほうが評価が高く、給与の上がり方が良い、ということも起こり得る。
実際にそういう事例もある。
役職についても、障がい者雇用枠で採用された方がリーダーとなり、健常者の方々に仕事の支持を与える立場になる人も出てきている。

そして、指導についても公正な指導、環境を敷くことを大切にしている。
合理的配慮のもと、仕事がやりやすいように改善をしていく。
そうすることで、社内全体のミスが減るという効果も生んでいるという。
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特性を活かすといいますが、、、 

実は現場のスタッフは、其処此処に配属される障がい者雇用で入社したスタッフの障がい的な特性を知らない。
それは、必要ないから、だという。だからあえて知らされない。
障がいの特性ではなく、常に「個々と向き合う」という姿勢を重んじているため、障がいの特性や症状の勉強をするのではなく、ひとりひとりと付き合いながら、その特性を見極めて、その人ならではの「好き」や「得意」、できること、やりたいこと、難しいこと、嫌いなことなどを把握していく、それは障がいの有無にかかわらず、どの社員にも行っていかなくてはならないことであり、必要なことだと坂井氏は言う。
そのような難しい勉強は必要なく、「いかに本人から話が聞ける環境が整っているか」が大切だという。

そういった環境を整備する上での社員の理解などについても、冒頭で話した「何のために障がい者雇用を促進するのか」という理由が明確で、企業利益に家内、職場環境改善に役立つということがはっきりしているため、どの社員からも不満ができることはないという。

覚悟が必要

継続して、拡大してこられて、「良いことばかり」とおっしゃる坂井氏だが、
「いいことづくめではありますが、そんなに簡単なことではないことも忘れないで下さい」
と釘も刺す。
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ここでは紹介しないが、
現場から「もう勘弁してください」と言われるような失態が続いたこともあったそうだ。
その時はなぜそんな事が起こるのかがわからなかったが、考えてもわからないことは「聞く」という姿勢で対応する。
対象者の通っていた学校の先生や支援機会にSOSを発信する。
そして、「勤務時間を減らしてみて下さい」「保護者の方で対応してみます」
そのような回答を得て、問題行動が収まったこともあったそうだ。
そこから導き出された坂井氏の答えは「わからないことは聞く」だ。
考えてもわからない。問題は簡単に解決しない。、
そもそも解決などはしない。
どう対処していくか、どう問題がおこらないように整備していくか、が大切であり、その対策を「し続けること」に対して
「覚悟」が必要だという。
その時に、孤立しがちな障がい者雇用の担当者を一人にしないよう、企業内外でSOSを発信し受け止めてもらえるコネクションが重要な役割を果たしていく。
一企業、一担当者で抱え込むのではなく、広くネットワークを築いていく。その体制こそが安全や安心な環境を叶えていくのだ。

バリアをバリューに

次々に生まれる課題に向き合いながらも、覚悟を決めてやり続けることで、得るものも付加価値も大きいとおっしゃる坂井氏。
その段取りをきちんと踏んでいくと、企業や本人にとっての成長も多くあるという。
その考え方や工程を、論理的にわかりやすく説明いただき大変参考となった。
今回参加したチャレキッズのモデル企業からも、現状の課題や目標などのシェアが有り。
会場からも福祉や就労移行支援事業所に求めるものは何か、といった具体的な質問も寄せられ、
“具体的なアクション”へのヒントが詰まった講座となった。
今回の内容を是非、チャレキッズのモデル企業とも共有しながら、実装へのステップへと進んでみたいと思う。

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